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お前はまだ、森から出たこともなかった。 自由に駆け回ってはいたが、それは私達の世界。 私の延長。 だから…たくさん歩いておいで。お前を、育てておいで。 そして。手土産も忘れるなよ?ふふふ。 --------- 「……これ、は」 石の階段を下った先、そこで待ち受けていた光景に思わず声が漏れた。 地下に広がる遺跡だというのに、目に付き刺さるような青空。 クインスは、少し嫌がるように身体をよじらせた。 しかしおかしいのは青空だけではなかった。 冷たい石畳を予想していた裸足の足は、柔らかく瑞々しい草に包まれている。 視線を遥か先へうつせば、足元から続く草地の先に木々が茂り、森を形成していた。 そしてどこからか…水のそよぐ音まで。 もしかすると、いや、もしかせずとも、草地にまぎれて近くに川が通っているのだろう。 『ここは一体なんなのだ?』 「…からくり屋敷、巨大迷路、ミラーハウス、忍者屋敷……。はぁ」 明らかに見当はずれな単語をポツリポツリと口にしていたが、 最後の方は馬鹿らしくなったようで、ため息一つで黙り込んだ。 ”どんなに考えようとも、答えは出せない” 本能が告げていた。 まるでここは、夢の中のようだった。 「……実は本当に、夢だったりしないでしょうね」 頬をつねると、痛みに触角がピンと張った。夢じゃない。 『まぁこれが夢だったなら…。 パっと目が覚めると、あの男が嬉しそうな顔で私を覗き込んでいて… そして嬉しそうな顔のまま、また何か妙なものを合成されたりして……。 ふぅ。現実より夢の方が、平穏に思えますね。』 また、ため息がもれた。 そして止まっていた足を再び繰り出す。 「まぁ、良くは分かりませんが。今は平穏なこの道を進むことにしましょう。」 クインスはそうして、浅く踏みならされた草の道に沿って歩き出した。 初めての、探索の始まり。