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(手帳に、流れるような字で1行。 途中何度か手を止めたようで、ところどころインク溜まりが出来ている) …動くものと戯れる猫も、あんな感じ、なのでしょうかね。 --------- 陽は月とその身を入れ替え、辺りには夜の闇が広がっている。 『過ごしやすい時間がやってきました』 静かに草地を歩みながら、クインスは口元をほころばせた。 目を刺激する光のせいで、彼は昼が苦手だった。 しかし何よりその身を形成する組織の影響だろうか、本能が夜を好いていた。 クインスは西方に流れる川にたどり着くと、 闇に沈んだ川縁に腰掛け、細く長い息を吐き出した。 湿った風が束ねた髪の毛先をそっと撫でていく。 晒された瞳に届く月の光は柔らかで、とても優しい。 ああなんと心地よい… 「!」 刹那、クインスの緩んでいた緊張がいっぺんに張り詰めた。 深く身をかがめ、息を潜め、尻尾も地面に張り付け、 突き出した触角だけ、様子を伺うようにそうっと揺らす。 真剣そのものの顔には、お世辞にも目つきが良いとは言い難い鋭く細い瞳。 その瞳をさらに細めて、草の陰、じっと一点を睨む。 10秒...30秒......1分......... 「ヴォォーー」 突然、背後でウシガエルの鳴き声が響いた。 クインスはハッとした表情を浮かべると、そのまま立ち上がる。 そうしてバツの悪そうな顔で髪を解き、野営地への道を引き返した。 彼が去ったあと、草の陰からそろりと這い出してきたのは─ 一匹のコオロギ。 「いけません…いくら本能があっても……虫は…」 小さな小さな呟きが、夜の闇に溶けて消えた。