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2007 05,10 22:00 |
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太陽の熱に、むっとたちあがる湿った土の匂い。
だが時おり、涼やかな風と花の香りが鼻先をくすぐり、まだ浅い季節を感じさせる。 深い深い森の中 「…なんと、またきたか!」 ブナの木に吊るされたハンモックの上で、男は声をあげた。 小さな手には一通の手紙。 胡散臭い言葉で綴られた、パーティへの招待状。 「さて、さて…。 思ったよりも早く、あいつの出番になったようだのぅ。ふふ。」 笑いながらハンモックから降りたその男は、 首もとのストールを直し、傍らにあるレンガ造りの家へと入っていく。 --- 同じ時、同じ森、 また一人の男が、そのレンガ造りの家へ歩を進めていた。 身長160半ばほど。それなりに引き締まった体つきをしている。 だがその顔は長い白髪で覆われ、殆どうかがい知ることは出来ない。 しかしそれよりも目に着くのは、 額の辺りから飛び出した2本の触角、そして尾てい骨から伸びる触手状の尻尾。 それらは彼が、人ではない、何か別種の生き物であることを如実に表していた。 青みがかった大きな足(…これもよく見れば指が4本しか無く、人との相違を確認できる)を静かに運び、 彼は家の戸の前で足をとめた。 すっと、一つ息を吸う。 「マルメロ、帰りましたよ。食料もこの通り。存分に感謝なさい」 獲物の野兎を掲げながら戸をあけた男は、しかしそのまま数秒固まった。 「…どこか、旅行にでも?」 静かに、問う。 すぐ目の前で微笑む男─マルメロと呼んだ男の足元には、ぱんぱんに膨らんだ荷袋が鎮座していた。 「ふふふ。」 問いに答えることはなく、マルメロは軽やかな足取りで立ち尽くす男に近寄った。 「これはお前の荷物だよ。クインス。」 ひらひらと、見せびらかすかのように一通の手紙を振ってみせる。 「以前聞かせただろう。財宝が手に入るらしい島の話。 さあ、お前のとっておきの出番だよ!」 マルメロは野兎をサッと奪い取り、代わりにその手へ手紙を握らせた。 暫くのあいだ男─クインスは、いぶかしむようにマルメロの顔を見つめ、そして手元の手紙を眺めていた。 が、そのうち触角と尻尾をだらりと垂れ下がらせて、低く唸る。 『……ああ。使いっぱしりに行ってこいというわけですか。この怠け者め─』 だがしかし悪態は飲み込んで、尻尾を引きずりながらも荷袋へと手を伸ばす。 「……行って、きます。」 やっと出たのは、殆どため息のような声。 そして更に、小さな声で続くぼやき。 「…ああ、なぜ断ることが出来ないのでしょう。きっと何かおかしなものまで合成されたんです…」 創られし生き物であるクインスは、未だ微笑みを絶やさないマルメロを見てまた項垂れた。 『島でのんびり過ごせれば良いのですが…』 はかない希望を胸に、クインスの旅は強制的に始まろうとしていた。 PR |
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