[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
むせ返るほどの、草と大地の匂い。 なぜか背面全体に掛かる重み、そしてひんやりとした感触。 「…あれ。俺、草っ原で寝てたっけ?」 緩い意識のまま、クインスは目を開けた。 とたんに、待ってましたとばかりに日の光が射し込み、慌てて手で目を庇う。 本来、クインスの目は非常に光に弱い。 そのため日の光などを直接目にすれば、激痛に襲われる──はずだった。 だからこそ反射的に身を固くしたものの、 今回に限ってはなぜか鈍い痛みがやってきたそれきりで、 追い討ちをかけてくるものはなかった。 暫し逡巡の後そっと手をのけてみても、瞼越しの光は至極優しい。 緊張を解き、起き上がったクインスは再びそっと目を開く。 流石に痛みはあるが、耐えられないほどのものではない。 一つ息を吐き辺りを見回せば、 冬だというのに草地のそこらじゅうに、花が咲き乱れていた。 「一体、なにごとだ?」 首を傾げた拍子、肩にかかった自分の髪がさらりと流れる。 そこでクインスはようやく気がついた。 自身の髪が随分と短く、黒くなっていることを。 それだけではない。 とてつもない違和感。何か、重大な何かが自分に起こっているような… だがクインスはそこで思考をとめ、大きく伸びをした。 「まあいいか。なんか元気になったし、目はすこぶる調子いいし。 ってかそうだ俺倒れたんだった! …うわー。ドレスコードのために用意した服、汚れちまってないかなあ」 ぶつぶつ呟いて服をチェックするクインスの元へ、 濡れタオルを抱えたポポが駆け寄ってくる。 島へきて71日目、まだ昼を迎える前の出来事であった。
インクの染みが拡がるように少しずつ、少しずつ、 くすんだ灰白髪が黒に染められていく。 緩く波打つ髪を手で掬いながら、クインスは荒い息を吐き出した。 「ああ、これは、一体…」 身体の痛みと寒気は更に増し、ぐらりと頭が揺れた。 「!?…もっ!もっ!」 異変に気づき駆け寄ってきたポポの足音は、とても重い響きとなって鼓膜を叩く。 「ああ、だめ…」 鈍い痺れが急速に身体を駆け巡っていく。 ぼやけた視界はいまや完全な白となり、次いであらゆる感覚が抜け落ち、 ついには思考も掻き消えていった。 「私は…わからない、何も。何も。ああでも、もう痛みは、ない──」 水の底へと落ち行くような感覚に包まれ、クインスは意識を失った。