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誰も、いなかった。 やるせない気持ちを抱えて、新たなコミュ参加者に向けてメッセージをこつこつ書き込む。 私は深い森の奥で育ち、人の集まる空間に殆ど出たことがなかった。 だから話し相手といえば物言わぬ木、花、虫、動物達ばかりだった。 それが今は、私の言葉を理解してくれるものが周りに沢山いる。 話しかけてみたくなるのも当然じゃないか。 … そんなわけで、これからも新規参加者全員に歓迎メッセージを送っていくつもりでいる。 ひ、人恋しさからの反動などではない。 しかし、相手の負担になっておらねばよいのぉ。 それだけが不安だ。
簡単な準備と心構えだけで挑んだ探索は、やはり厳しいものとなった。 道をふさぐ野良犬をなだめ、再び遺跡外へと踵を返す。 まだ遺跡に入ってから2日だというのに、既に服も体も傷だらけだった。 「いやはや。これは私一人じゃ絶望的かのぉ…ぬ」 足元を走り回るムカデから目を外したところで、ふと前方の人だかりに気がつく。 「これは一体?」 近寄ってみると、人々は皆例外なくそこにある何かを見ているようだった。 真剣な眼差しを追う。 「はて、掲示板か!」 皆の視線の先には武器や防具の作成請負、 そして仲間募集の貼り紙がところせましとクリップされていた。 「うむ、確かに防具は欲しいのぉ。武器も…出来れば替えた方がよさそうか」 そして 「仲間募集…」 声に出したとき、少しドキリとした。 唾を飲み込み、そして小さく頷く。 「よし」 決意の表情で、再び食料確保に向かう。 また遺跡探索の日々となるのだ。出来るだけ買い込まねばなるまい。 「…でも結局、パンくずと草、か。ふふふ…」 笑いを勘違いしたムカデが、嬉しそうに体をくねらせた。
遺跡外にて約束した人達と、中で待ち合わせをすることとなった。 ただ、私1人遅れての合流なため、どうにも気が急く。 道は間違えぬよう、注意して駆けつけなくてはのぉ。 時間節約のため、草をかじりながら走る。果たしてこんなもので腹は膨れるだろうか。 遺跡外にいる間に、コミュ参加者へ歓迎のメッセージをとばしてみた。 間違いなく届くとよいのだが…心配でしかたがない。 しかしこうして人に話しかけるきっかけが出来るのは嬉しい。 コミュ関係なく、色々な人と会話を楽しめるようになればよいの。 理由こじつけつつ頑張っていきたい。 緊張で震える指と、暫く戦わねば。
遺跡外へと戻ってきた。 人ごみをふらついてみて気づいたのだが、 最近の流行なのか、赤い厚手の服をよくみかける気がする。 帽子もセットで暖かそうだったゆえ、一着譲ってもらった。 …うむ、これはぬくい。 元々はさたんなんとかという職業の者が着用する、伝統的な衣装らしい。 暫くはこれで過ごすこととしよう。 そういえばコミュニティというものを作ってみた。 同じ趣味趣向の者が集う場所で、私が作成したのは絵に関するものだ。 しかし気を抜いているところ既に人が参入しており、独り言をばっちり聞かれてしまった。 正直気恥ずかしかったのぉ…。 せっかくだから何かしたいと思う。さて、どうしようかの。
さて、どうしたものか。 ムカデは生きたままハサミで切り刻むと良い、と聞いたことがある。 …無理だ。そんな恐ろしいことをこなす勇気など、はっきり言ってない。あるわけがない。
そうだ。エルフの母から、とっておきの方法を教わっていた気がする。 「あーえーと、うーむ。 あ、笑ってごまかす…」 にへら、と力なく笑ってみせる。そしてすぐに肩を落とす。 「何やってるんだ私は。こんなのでどうにかなれば苦労は…ひぃっ」
頭を抱えてブツブツつぶやいていた私の足元に ムカデが擦り寄ってきていた。
「ご、ごまかせ…た?」
キラキラ輝く瞳に変わった(気がする)ムカデが、 私を見つめて微笑んだ、ような気がした。